13-3. 遺伝子工学におけるPCRの利用
https://gyazo.com/c46126ed3d416a19ff66aa9dd02da825
https://amzn.to/2I6DMZu
https://gyazo.com/4275044f8449860473b41d470462bdd8
1) DNAの検出, 増幅, シークエンシング
基本的な目的は、DNA中に狙った配列があるかどうかの検出で、反応後にPCR産物をゲル電気泳動を行って確認する
コロニーPCR
プラスミドの形質転換で生じた細菌がもつプラスミドの検定を、細菌コロニーから調製したDNAをもとにPCRする方法
クローニング/サブクローニング用のDNAを得たり、そのための材料であるDNAライブラリーを作製することもPCRの目的の一つ
DNAシークエンシングでも、現在はPCRを用いるサイクルシークエンシングやダイレクトシークエンシングが主流
memo: RACE(rapid amplification of cDNA end)
RNAの5'末端や3'末端を検出するための方法
5'-RACEでは一本鎖cDNAの5'末端に既知のアンカー配列を結合させ(e.g. TdTを使ったホモポリマー合成法で特定のヌクレオチドを取り込ませる)、それと内部でPCRを行う
2) RNAの検出
PCRによってRNAを検出する方法にRT-PCR(reverse transcription:逆転写)
原理(真核生物mRNAから特定のDNAを検出する方法の場合)
逆転写酵素でRNAから多様な一本鎖cDNA集団を調製し、それをもとに特定プライマーでPCRする
https://gyazo.com/9e1be678019d0063116cafba864547d1
操作の概要
3'末端のポリA鎖にアニールするオリゴdTをプライマーにし、逆転写酵素反応を行う
逆転写で得られたcDNA集団はcDNAライブラリーとして、後の検出実験に何度でも使える
ランダムプライマーを使うと、材料にポリA鎖付きmRNAを使わない限り、ほとんどがrRNAの逆転写物になってしまう
逆転写酵素のRNaseH活性でRNAが一部分解されるが、アルカリ処理でRNAを分解する方法もある
RNaseH(-)逆転写酵素を使うと、長いcDNAをつくりやすい
目的の配列をはさむように設計したプライマー1対を使い、目的の配列を増幅する
この場合、イントロンをはさんでPCRすると、混在したゲノムDNAから増幅したDNAは(イントロン分だけ)長くなるため、cDNAからの増幅産物と区別でき、ゲノムDNA混在の影響を避けられる
増幅産物を電気泳動で検出できる
産物量が検出限界以下になったり飽和したりしなければ、異なった試料間での相対的な量のおおよその比較(半定量PCR)ができる
3) PCR産物をサブクローニングに使用する
PCR増幅DNAをプラスミドベクターに組込んで大腸菌で増やす場合、増幅DNAの5'末端はもともとプライマーの5'末端であったためにリン酸基がついておらず、またpol I型酵素を使った場合はA(アデニル酸)が3'末端に付加されてしまうので、そのままではサブクローニングできない
以下のような対応のいずれかが取られる
突出しているAをを削って末端を平滑化する
その後、そのままベクターと平滑末端で連結するか、リンカーを連結後にライゲーションする
TAクローニング
https://gyazo.com/0a6f3a358029b77eec670fdd4fbea794
原理
pol I型DNAポリメラーゼによってAが1個付加されたPCR産物を、Tが1個付加されたプラスミドベクターにA-T対による水素結合を利用してアニールさせ、その後ライゲーションする
TdT活性のないα型酵素による産物では使えない
操作の概要
po I型DNAポリメラーゼでPCRをする
ベクターのクローニング部位を切断・平滑化する
dTTP存在下でpol I型のPCR用DNAポリメラーゼを働かせ、Tを1個付加する
既製品やキットとしても入手できる
両DNAをライゲーションし、大腸菌に形質転換する
DNAリガーゼを使わない方法でベクターに連結する
4) 塩基配列の付加や変異導入のための利用
PCRプライマーの5'末端に制限酵素配列を余分に付加すると、増幅産物の端に酵素認識部位をもつDNAを作り出すことができる
一方、プライマー内部に少数の不対合塩基や短い挿入・欠失を入れることで、特異的な部位に変異をもつDNAをつくることができ、制限酵素認識部位創出、コドンの変換、制御配列の作出や修飾・破壊などができる
5) DNAの多型解析、変異解析への応用
PCR-SSCPやPCR-RFLPで使われる
SSCP:single-strand conformation polymorphism, 一本鎖構造多型
目的配列をPCRで増やし、それを変性後にランダムコイルにし、中性ゲルで電気泳動する方法
RFLP:restriction fragment length polymorphism, 制限酵素断片長多型
DNAを制限酵素で切断し、特定断片が出るかどうかを見る方法で、酵素認識部位に起こった変異の有無がわかる
memo: DNAシャッフリング
断片化した2個の相同遺伝子(e.g. 異なる変異をもつ)をアニールさせ、プライマーなしでPCRすると、断片がランダムに連結したキメラ遺伝子が構築される
新しい遺伝子構成のDNAをin vitroでつくる技術
6) クロマチン結合タンパク質の検出
クロマチン免疫沈降(ChIP:chromatin immunoprecipitation)
クロマチンに結合した状態のタンパク質を抗体で免疫沈降させ、含まれるDNAをPCRで検出することによって、間接的にDNA結合タンパク質を検出する方法
この場合は特にChIP-PCRともいう
この方法は、細胞内でDNAに結合しているタンパク質を検出する方法として広く用いられている
Column 社会の中で使われているPCR
「個人/個体識別」
複数のサテライトDNAをPCRで増やし、その増幅パターン(DNA指紋ともいう)から個人識別ができる
人間個々人のゲノムにはごくわずかな違いがあるが、特に非遺伝子の中に多数あるミニサテライトDNA領域は変異しやすく、個人間ですべてが一致する確率はほとんどない
犯罪捜査や親子鑑定に広く利用されている
ヒト以外の生物に応用し、品種の識別、産地偽装の調査などにも使われる
「医療」
遺伝子診断や病理診断の手段として必須
感染症を起こすウイルスや細菌の型を決める
タイピングにも汎用される